教師から起業したい。
でも、教える仕事まで手放したいわけではない。
学校の外で挑戦してみたい一方で、子どもと関わる時間も、家族との生活も大切にしたい。「辞めるか、続けるか」の二択では、自分の望む働き方をうまく言葉にできないことがあります。
教師経験を事業につなげる道は、一つではありません。教育の会社をつくる、民間企業を経て独立する、別の仕事と個人事業を組み合わせる。公開されている実例には、異なる歩みが見られます。[1][3][5][6]
最初に押さえたいこと
起業するか、の前に。
何を続け、何を変えたいか。
誰かと同じ肩書きを目指すより、教師として大切にしてきたことと、これから変えたい働き方を分けて考えましょう。独立は選択肢の一つであって、目的そのものではありません。
この記事では、教師経験者5人の公開資料をもとに、起業や事業づくりへの道のりを紹介します。そのうえで、独立・転職・仕事との両立の違いと、判断する前に確かめたいことを整理します。
扱うのは、主に小学校・中学校・高校等の教師経験を起点にした働き方です。会社を創業した方と、個人事業や既存事業を担う方を区別して紹介します。成功率や平均年収を示す調査ではありません。
教師の起業は、教壇を離れることだけではない
「何をするか」と「どんな立場で働くか」を分ける。
起業を考えるとき、「自分の会社をつくること」と「教育の仕事を続けること」を、ひとまとまりに考えてしまいがちです。まずは、次の3つを分けてみてください。
- 届けたい相手
- 誰を支えるか子ども、保護者、先生、社会人など。
- 担いたい仕事
- 何をするか教える、企画する、教材をつくる、運営するなど。
- 働く立場
- どう関わるか雇用される、自分で事業を持つ、組織と共同で取り組むなど。
たとえば、「子どもに教え続けたい」と「自分で全業務を経営したい」は別の希望です。反対に、毎日教壇に立たなくても、先生の学びを支えたり、学びの場をつくったりする形で教育に関わる道はあります。
教える仕事を残すために、働く場所や雇用形態を変える。実現したい教育を広げるために、運営する側へ回る。どちらも、検討する価値のある選択肢です。
参照する東京都の規程は、都立学校の対象職員に関するもので、全国共通の手続きを示すものではありません。国立学校や非常勤等は扱いが異なります。他の人の実例は、ご自身の活動の許可を意味しません。
公立・私立の違いと、在職中の準備を詳しく確認する教員から起業するには?兼業の注意点・事業アイデア・退職前の準備 →教師から起業・事業づくりへ。5人の実例
結果だけでなく、そこに至る経路を読む。
ここでは、企業の公式情報、本人の寄稿、公開インタビュー、登壇主催者の紹介に基づき、5人の歩みを整理します。会社の創業と、既存事業の代表を担うことは同じではありません。何を引き継ぎ、何を変えたのかに注目してください。
教科を教える経験から、
人が育つ方法を伝える仕事へ。
原田隆史さん|原田教育研究所
- 01公立中学校で保健体育を指導
- 02学校での実践から教育手法を構築
- 03企業等への研修・教育事業へ
原田さんは、母校の同窓会への寄稿で、大阪の公立中学校に保健体育の教諭として20年間勤務した経歴を紹介しています。その後は、家庭・学校・企業等を対象にする教育の会社などを経営する立場へ移っています。[2]
原田教育研究所の公式サイトでは、学校での実践から生まれた教育手法を、企業等の人材育成にも展開してきた経緯を説明しています。業務には研修・講演、教材開発などが挙げられています。[1]
この実例を読むポイントは、担当教科そのものを商品にする以外にも、経験の活かし方があることです。相手が目標を決め、振り返り、行動を続ける支援を、別の場面で必要とする人はいないか。そう問い直せます。
教職20年の経歴は2014年度会報の本人寄稿、事業内容は公式サイトに基づきます。特定の手法の効果を、この記事が検証したものではありません。
自分の授業で何を教えたかだけでなく、相手が取り組めるように、どんな支援を工夫したかを書き出してみましょう。ただし、別の分野に届ける際は、その相手の課題と専門性を改めて確かめる必要があります。
参照:原田教育研究所の公式紹介 / 本人による経歴の寄稿
教室の枠を越えて、
人が出会い、学ぶ場をつくる。
松岡慎也さん|Meets Vision・ドングルズ
- 01小中学校で16年間勤務後、退職
- 022010年 教育支援NPOを設立
- 032016年 株式会社ドングルズを設立
松岡さんについて、なごのキャンパスの2020年の登壇案内は、小中学校で16年間勤務した後に退職し、2010年に教育支援NPO法人Meets Vision、2016年に株式会社ドングルズを設立したと紹介しています。[3]
当時の活動として挙げられているのは、小学生向けの学びの企画や、子どもから社会人までが参加するワークショップ、企業の人材育成です。教える相手と、活動の場を広げていった実例といえます。[3]
ここから考えたいのは、「学校の授業を、そのまま校外で行う」だけが選択肢ではないことです。地域や企業と協力し、学ぶ機会そのものを企画する役割にも目を向けられます。
経路・活動は2020年12月23日のイベント紹介に基づく歴史的な実例です。現在の役職や提供サービスを確認する情報としては扱っていません。
自分が講師になる案と、人・場所・テーマを組み合わせて企画する案を、別々に書いてみてください。後者なら、協力してほしい相手と、自分が引き受ける運営の仕事も明らかにします。
教室で感じた課題を、
学校の外から解決する仕事へ。
星野達郎|株式会社NIJIN
- 01学校現場で教員として勤務
- 022022年 退職しNIJINを設立
- 03教員の学び・学校外の学びを事業に

「学校に不満がある」で止めず、誰が、どんな場面で困っているのかを具体化する。そのうえで、学校の中で改善する方法と、外から提供する方法を比べてみましょう。
参照:NIJINの創業物語・沿革。創業者自身の歩みを紹介しています。
次の2人は、転職や他の仕事を組み合わせながら事業に関わる実例です。役職名だけでなく、どんな仕事を並行しているかにも注目してください。
学校の外を知ることと、
教える仕事を続けること。
森川陸さん|先生キャリアコーチ
- 01公立中学校で社会科教員を3年
- 02教育系スタートアップに転職
- 03独立し、教壇と事業の両方に関わる

残したい仕事が「子どもに教えること」なら、勤務先や働く形まで同じである必要があるかを考える。ただし、両立を計画するときは、仕事ごとの時間と契約を先に確かめましょう。睡眠や休息を削る前提にはしません。
参照:森川さんの公開インタビュー(2026年6月30日時点)。立ち上げ段階の活動であり、収益や長期的な事業成果を示すものではありません。
自分で全部つくらずに、
支えられた場所を育てる側へ。
横山竜也さん|授業てらす
- 01教員として3年間勤務
- 02会社勤務と個人の運動遊び教室
- 03授業てらすの事業代表も担う

「同じ仕組みを自分でつくる」以外に、すでにある場へ、自分の経験を持ち込む方法はないか。支えたい相手に近づくために、創業者である必要があるのかも問い直せます。
参照:横山さんの公開インタビュー(2026年7月1日時点)。本人の経験であり、同じ働き方や成果を保証するものではありません。
5人の歩みを、そのまま自分に当てはめる必要はありません。相手、役割、働く場所、契約のどれを変えたのか。その違いを読むと、「起業家になる」より具体的に、自分の進路を考えられます。
独立・転職・仕事との両立。自分に合う道は?
肩書きではなく、引き受ける仕事と条件で比べる。
実例を手がかりに、選択肢を4つに分けます。これは向き・不向きを判定する診断ではありません。複数の形を時期によって組み合わせることも含め、比較するための整理です。
自分で独立して始める
- この希望を確かめたい
- 提供する内容だけでなく、料金や運営方針も自分で決めたい。
- 自分が用意すること
- 集客、サービス提供、契約、資金、経理を、誰が担うかまで決める。
- 選ぶ前の問い
- 自分が教える以外の時間と費用を含めて、続けられるか。
教育事業者等で経験を積む
- この希望を確かめたい
- 事業がどう売られ、運営されるかを、仕事として経験したい。
- 先に確認すること
- 応募する職種で、企画・営業・運営のどこに関われるのか。
- 選ぶ前の問い
- その仕事で得たい経験を具体的に説明できるか。社名だけで選んでいないか。
勤務と個人事業を組み合わせる
- この希望を確かめたい
- 既存の仕事や収入源を残しながら、別の役割にも取り組みたい。
- 先に確認すること
- 勤務先のルールと手続き、契約、使える時間、連絡への対応範囲。
- 選ぶ前の問い
- 繁忙期が重なっても、顧客への約束と生活を守れるか。
既存の組織で事業を育てる
- この希望を確かめたい
- 一人ですべてを用意せず、仲間や既存の仕組みとともに事業をつくりたい。
- 先に確認すること
- 雇用・業務委託等の立場、意思決定の範囲、費用負担、報酬の条件。
- 選ぶ前の問い
- 教材・顧客情報・事業は誰に帰属し、活動を終えるときはどうなるか。
勤務と事業を組み合わせる場合は、勤務先ごとのルールが適用されます。「副業から参加できる」と案内されたプログラムでも、所属先で認められるかは別です。[7][8][9]
「代表になれる」より、具体的な契約を見る
同じ「事業代表」という言葉でも、働く立場や決められる範囲は、個別の契約によります。役職名だけで収入や裁量を想像せず、次の点を確認しましょう。
- 担う役割
- 企画だけか、営業・顧客対応・採用・経理も含むか。相談と承認は誰が行うか。
- お金と時間
- 受講料・事業費・報酬・支払時期はどう決まるか。必要な活動時間はどの程度か。
- 権限と帰属
- 価格や提供内容を誰が決めるか。成果物・顧客情報・事業の扱いはどうなるか。
- 変更・終了
- 活動を減らす、休む、終了する場合の条件と、利用者への引継ぎはどうなるか。
相談相手や仕組みがあることと、責任がなくなることは別です。支援してもらえる範囲と、自分が引き受ける範囲を並べて確認すると、期待のずれを減らせます。
教師からの起業で、先に確かめたい5つのこと
勢いだけで退職せず、判断材料を増やす。
ここからは、自分の進路に置き換えるための確認です。「起業に向いている性格」を探すより、まだ答えが出ていない問いを、一つずつ具体的にしましょう。
変えたいのは、勤務環境か、担う役割か
今の働き方への不満と、事業で実現したいことを分けて書きます。働く場所を変えることで近づける希望なのか、自分が運営側に回る必要があるのかで、次に調べることが違います。
子どもと向き合う時間を、もっと確保したい。
どんな子どもに、どんな関わりを届けるのか。そのための場所と運営を、自分で持ちたいのか。
転職や働き方の変更も含めて比べてください。起業を選ばないと教育への思いが足りない、ということはありません。
「教師をしてきた」を、相手に伝わる経験へ言い換える
在職年数だけでは、何を任せられる人なのかが伝わりません。自分の働きかけと、相手の変化、工夫した手順を具体的にします。
小学校で学級担任をしていました。
学習のつまずきを聞き取り、課題を小さく分け、本人が取り組みやすい順番を組み立ててきました。
これは説明の例です。実際に経験していない成果を足す必要はありません。授業づくり、対話、行事運営などから、自分が再び担当できる仕事を言葉にしましょう。学校の児童・生徒の情報や、校務資料を営業用に持ち出さないことも大切です。
「応援される」と「選ばれる」を区別する
友人から「先生ならできるよ」と言われることは、励みになります。ただ、具体的なサービスを選んでもらうには、別の確認が必要です。
- 必要としているのは、どんな状況の人か。
- その人は今、どんな方法で困りごとに対応しているか。
- 無料の情報や既存サービスでは、何が足りないか。
- 価格・時間・場所を含め、どの条件なら利用を検討するか。
学ぶ本人、申込む人、料金を払う人が異なる場合は、それぞれの判断を分けます。募集やサービス提供に進むのは、勤務先の手続きや事業に必要な確認を済ませてからです。[7][8][9]
企画・料金・集客を具体化したい方へ教育で起業するには?事業アイデア8選・始め方・費用を解説 →収入の見込みだけでなく、暮らしと時間を確認する
「月にこれだけ売れたら大丈夫」だけでは、判断材料が足りません。提供に使う経費と時間、入金までの期間、仕事が減った場合の暮らしまで考えます。
退職や契約の前に、書き出すこと
暮らし:毎月必要な生活費、事業に使わず残したい資金、家族と共有したい条件。
事業:準備・提供・連絡・集客の時間、必要経費、支払いや入金の予定。
見直し:想定より申込みが少ないとき、どの支出や活動を、いつ見直すか。
仕事を並行する場合も、授業や面談の時間だけで予定を埋めないようにしましょう。準備・連絡・移動・休息を含めて、実際に使える時間を確認します。兼業を進める際の過重労働防止や健康確保は、厚生労働省も重視しています。[9]
事業の資金と収支を整理する際は、日本政策金融公庫の創業計画書と記入の解説も参考になります。[10] 個別の税金・社会保険・契約の扱いは、条件をそろえて窓口や専門家へ確認してください。
前に進む条件と、立ち止まる条件を両方決める
起業の準備では、「何が分かったら進むか」と同じくらい、「どんな場合には計画を変えるか」も大切です。
評判がよさそうなので、教室の物件を契約する。
対象者の困りごと、提供条件、安全な運営体制、費用を確認する。見通しが立たなければ、物件を持つ計画は保留する。
企画を考えること、勤務形態を変えること、サービスを開始すること、退職することを、一度に決める必要はありません。今の自分が判断できる範囲だけ決め、次の不明点を確かめる。その進め方なら、途中で方向を変える余地を残せます。
教師の起業で、よくある疑問
教師しか経験がなくても、起業を考えられますか?
30代・40代からでは、遅いのでしょうか?
教師を続けながら、起業することはできますか?
教師から起業したら、年収は上がりますか?
教育の仕事で、お金をいただくことに抵抗があります。
まずは、一枚の進路検討シートから
退職の結論ではなく、次に確かめることを書き出す。
実例を読んで「この人のようになりたい」と感じたら、どの部分に惹かれたのかを書きます。会社を持つことなのか、教える仕事を残せることなのか、仲間と企画を育てることなのか。そこに、自分の選びたい働き方の手がかりがあります。
WORKSHEET / 書き出す7つの項目
自分の希望と、未確認のことを分ける。
- 残したいこと
- 教師の仕事で、これからも続けたいことは____。
- 変えたいこと
- 今の働き方から、変えたい条件は____。
- 支えたい相手
- ____に困っている人に、____を届けたい。
- 比較したい経路
- 独立・転職・両立・組織内の事業づくりのうち、____と____を比べたい。
- 守りたい条件
- 生活・時間・資金について、____は守りたい。
- 次に確認すること
- ____について、____で情報を確かめる。
- 見直す時期と条件
- ____までに確認し、____なら計画を見直す。
合否や適性を判定するシートではありません。分からない欄は空白にし、次に調べることとして残してください。
資金のことなら創業支援の窓口へ、勤務先のルールなら服務・人事の担当へ、サービスの必要性なら想定する利用者へ。分からないことによって、確かめる相手を変えましょう。
企画と事業の進め方を、継続して相談できる相手がほしい場合は、既存の組織で実践する方法もあります。先に紹介した森川さん・横山さんが関わる星野起業塾は、その一例です。
公式ページでは、NIJINの中で事業をつくり、条件に応じてグループ会社化を目指すプログラムとして案内されています。完全独立を前提とする講座ではありません。自分で独立したいのか、組織とともに事業を育てたいのかも、選ぶ前に確かめたい違いです。[11]
教師の経験を、
どこで、誰のために活かすか。
今の時点で、起業すると決めていなくてもかまいません。次に調べることが一つ決まれば、それが準備になります。自分の大切にしたい教育と暮らしを、どちらも置き去りにしない進路を考えてみてください。
募集要項確認:2026年9月19日。公式ページには、途中解約による返金不可、在塾中の学費改定の可能性が記載されています。事業費の負担、報酬・収益配分、意思決定の範囲、事業の帰属等は、最新の募集要項・面談・契約で確認してください。在職中の活動には、勤務先のルールが別途適用されます。[11]
出典・参考情報を確認する
- [1] 株式会社原田教育研究所|私たちについて・企業概要
- [2] 大阪府立阪南高等学校同窓会|原田隆史氏の寄稿(2014年度会報より転載)
- [3] なごのキャンパス|松岡慎也氏の登壇案内・プロフィール(2020年12月23日開催)
- [4] 株式会社NIJIN|創業物語・沿革
- [5] 株式会社NIJIN|森川陸さん公開インタビュー(2026年6月30日)
- [6] 株式会社NIJIN|横山竜也さん公開インタビュー(2026年7月1日)
- [7] 東京都|学校職員の兼業等・教育に関する兼職等の事務取扱規程
- [8] 文部科学省|教育公務員特例法(抄)第17条
- [9] 厚生労働省|副業・兼業:勤務先のルールと手続き
- [10] 日本政策金融公庫|創業計画の書き方
- [11] 株式会社NIJIN|星野起業塾・プログラムと募集要項
- [12] Unsplash|写真の利用条件
情報確認:2026年9月19日。株式会社NIJINが制作する解説記事です。実例は公開資料に基づいており、この記事のための新規取材ではありません。原田さん・松岡さんの事例は、星野起業塾との関係や推奨を示すものではありません。「自分の進路に置き換えるなら」や比較・確認項目は編集上の提案で、本人の発言とは区別しています。経歴・活動は各資料の時点によります。制度や募集条件は変更される場合があり、個別の法務・税務等は所管窓口や専門家に確認してください。

