早稲田大学MBA「ソーシャルイノベーション」
NIJIN代表・星野達郎が登壇。
教育課題を事業で解決する、創業のリアル
2026年5月中旬、早稲田大学ビジネススクールの講義「ソーシャルイノベーション」に、株式会社NIJIN代表・星野達郎がゲスト登壇しました。教員から起業へ踏み出した原点、不登校を生む構造、学校に並ぶ教育インフラの設計、顧客理解、組織づくり、創業初期の失敗、そして教育を世界へ届ける構想まで、教育スタートアップの現在地を率直に語りました。
講義の冒頭、星野は「30歳になるまで、起業の“き”の字も考えたことがなかった」と話しました。両親は公立学校の教員。自身も小学校教員として働き、安定した生活を送っていた人間が、なぜ会社をつくり、学校教育の仕組みそのものを変えようと考えたのか。
約21分の講義で語られたのは、華やかな成功物語ではありません。自分を出せない子どもとの出会い、グアテマラで目にした教育格差、創業初期の知識不足とチーム崩壊、心身の不調、仲間との距離。それでも「幸せにすると決めた人を幸せにする」ために、起業を手段として選び続けてきた実践です。
困っている人を責めることではなく、
困り続ける構造をつくり直すこと。
早稲田大学MBAの受講生へ届けたのは、教育事業の紹介を越えた「ソーシャルイノベーションをどう事業にするか」という問いでした。
COURSE
早稲田大学MBA
「ソーシャルイノベーション」とは
早稲田大学ビジネススクール(早稲田大学大学院経営管理研究科)の「ソーシャルイノベーション」は、2026年度の一般選択科目として開講されています。大学公式の時間割では、夏クォーターの夜間科目として、大畑慎治氏と川上智子教授が担当しています。
プログラム設計を担う合同会社Oの公開情報によると、2026年度は第8期・全14コマで構成され、社会課題を事業で解決する複数の実践者がゲストとして参加。NIJINの星野達郎も、その一人として教育領域のソーシャルイノベーションを紹介しました。
- 開講
- 早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)
- 科目区分
- 一般選択科目/夏クォーター/夜間
- 担当
- 大畑慎治氏・川上智子教授
- プログラム
- 2026年度・第8期、全14コマ
- ゲスト登壇
- 株式会社NIJIN 代表取締役 星野達郎
- 講義テーマ
- 教育課題の構造化、ソーシャルビジネス、教育インフラ、顧客理解、組織・採用、社会共創、事業拡大
講義動画「教育ベンチャー創業のリアル」を公開しています。
ORIGIN
「起業家になりたい」からではない。
目の前の子どもを越えて、仕組みを変えたかった
星野が教師を目指した原点には、教員だった父の存在があります。荒れた中学校で生徒と真正面から向き合い、柔道部を全国・世界の舞台へ導く父の姿を見て、教師とは「人の人生を変えられる仕事」だと感じていました。
しかし、実際に赴任した青森県の学校で出会ったのは、いわゆる非行に走る子どもではなく、自分を出せずにいる子どもたちでした。その後、JICA海外協力隊として活動したグアテマラでは、自分をのびのび表現しながらも、貧困や地域の事情によって学校へ通えない子どもに出会います。
日本では学校へ通えても自分を出せない。海外では自分を出せても、教育そのものへアクセスできない。二つの現場を経験したことで、「誰かの努力が足りないのではなく、教育の仕組みに課題がある」と考えるようになりました。
幸せにすると決めた人を幸せにするための手段。
一つの教室の担任では、隣のクラスや全国の子どもまで支えることはできません。目の前で得た教師としての知見を、社会全体へ届けるために選んだ手段が起業でした。
PROBLEM DEFINITION
不登校そのものではなく、
不登校を生み、孤立を深める構造を見る
講義で星野が強調したのは、「不登校そのものは問題ではない」という問題設定です。社会課題を事業で解決するには、目に見える現象をそのまま問題と捉えず、その背後にある構造と、そこから生じる二次的な困難を分けて考える必要があります。
同じ年齢・地域の集団が、同じ場所で、同じ目標とルールに沿って学ぶことが、ほぼ唯一の選択肢になっています。
周囲の目を気にして家から出にくくなり、友達、信頼できる大人、豊かな教育体験へアクセスする機会が減っていきます。
つまり、解決すべきなのは「学校へ戻すこと」だけではありません。学校以外にも質の高い教育があり、家にいても人とつながれ、自分の状態や得意不得意に応じて学び方を選べる仕組みをつくることです。
最高の教育をこちらから届ける。
この発想から、自宅のベッドからでも授業・仲間・社会へつながれるNIJINアカデミーが生まれました。
BUSINESS MODEL
公教育を持ち運び可能にする、
オンライン×リアルの教育インフラ
NIJINアカデミーは、メタバース校舎と全国のリアルキャンパスを組み合わせたオルタナティブスクールです。自宅から参加できるだけではなく、地域の教室、企業、大学、自治体、海外など、子どもがいる場所を学びの場に変えていきます。
講義時点で星野は、入学者約830人、全国約42キャンパス、卒業・復学300人超、企業・機関との連携200〜300件規模と説明しました。これらは講義内で紹介された時点の数値ですが、事業の成長以上に重視しているのは、子どもが安心を取り戻し、人とのつながりや挑戦を増やしていくことです。
講義内で紹介された、2026年5月中旬時点のおおよその実績
入学者
キャンパス
子ども
連携
教育モデルは「多様性・主体性・選択性」
同年齢だけで学ぶのではなく、異年齢・異地域の子どもがつながる。全員に同じゴールを課すのではなく、本人の興味や得意を起点にする。顔を出すか、声を出すか、チャットから始めるか、何人と関わるかも選べる。子どもを既存の学校へ合わせるのではなく、教育の方を一人ひとりへ合わせます。
教育のゴールは「自分・学び・社会を好きになる」
知識を身につけることだけでなく、自分を好きになり、学びを好きになり、社会を好きになることを大切にしています。自分や社会を信じられれば、環境が変化しても学び続け、人の役に立つ方法を考え続けられるからです。
最大の競争力は、テクノロジーではなく教師力
オンライン教育だからこそ、画面越しに子どもの変化を捉え、対話を生み、安心できる関係をつくる教師の力が欠かせません。NIJINは「授業てらす」「中学校てらす」などの教員研修プラットフォームで築いた教師ネットワークと授業研究を、アカデミーの教育へつないでいます。
SOCIAL CO-CREATION
競争ではなく共創。
社会との接点そのものを、教育の質にする
NIJINアカデミーでは、教室の中だけで教育を完結させません。企業、大学、自治体、地域の専門家と連携し、子どもが社会の本物の課題、仕事、技術、人に出会う機会をつくります。
JR東日本やTOPPANなどとの連携を通じ、企業の技術や場所を、子どもが学び、提案し、社会と関わる場へ変えています。
東京学芸大学との連携では、大学内のラボ校や共同研究を通して、新しい学びのあり方を実践と研究の両面から探究しています。
引きこもり、過疎地、経済的な事情などにより学びへアクセスしにくい子どもにも、自治体との連携で教育を届けています。
ZOZOとの制服づくり、企業でのプレゼン、商品・アプリの共同開発など、子ども自身が社会へ価値を生み出す側になります。
講義では、長期間家にこもっていた子どもが、社会との出会いを重ね、経営者の前でピッチへ挑戦したこと、好きな動物をテーマに活動を立ち上げ、売上を保護団体へ寄付したこと、将棋やラジオなど自分の得意を社会へつなげていることも紹介されました。
育つ環境によって大きく咲く「ランの花」。
平均から外れていることは、能力が低いことではありません。その子に合う土壌、人、学び方と出会えば、独自の色と大きさで社会に価値を生み出します。
MANAGEMENT
成功だけでは語れない。
創業初期の失敗と、経営者としての学び
MBAの講義だからこそ、星野は事業の成果だけでなく、創業初期の苦しさも隠さず語りました。教員から起業し、社会保険や雇用の知識さえ十分ではない状態で組織をつくった結果、判断の混乱や運営チームの崩壊を複数回経験。心身にも不調が現れ、旧知の友人や同僚との間に距離が生まれた時期もありました。
それでも事業を続けられたのは、起業そのものへの憧れではなく、解決したい課題と、幸せにしたい人が明確だったからです。失敗を通して得た経営の軸として、講義では次の考え方が語られました。
表面だけで顧客を見ない
星野は、ピカソのキュビズムになぞらえ、人には一方向から見ただけでは分からない多面性があると説明しました。学校に行けない、顔を出せない、言葉が出ないという一面だけで、その子の力を判断しない。行動の奥にある感情、経験、得意、願いまで理解することが、教育でも事業でも出発点になります。
巨人の肩に立ち、歴史から仕組みを捉え直す
現在の学校制度だけを前提にせず、寺子屋や修道院など、異年齢の地域共同体が教育を担ってきた歴史にも目を向ける。既存の知見や先人の挑戦を学ぶことで、オンラインの異年齢教育も、まったく新しいものではなく、教育の原点を現代の技術で再構成する試みとして捉えられます。
誰かの人生を継承し、理念を事業に埋め込む
NIJINという社名や「幸せになる力、人を幸せにする力」という理念には、青森県八戸市の老舗旅館を支援した際に出会った女将の言葉が受け継がれています。理念を飾るのではなく、採用、教育、商品、意思決定へ通すことで、会社の行動基準になります。
MBA LESSONS
教育ベンチャーの実践から考える、
5つのソーシャルイノベーション
講義全体をMBAの視点から整理すると、NIJINの実践には、社会課題を持続可能な事業へ変えるための5つのポイントが見えてきます。
「不登校」を問題とするのではなく、学び方の選択肢が一つしかない構造と、学校を離れた後に人や教育から孤立する構造へ分解します。
家から出られないなら、家へ教育を届ける。顧客の行動を責めず、サービス側がアクセス方法を変える発想です。
教育サービスをつくるだけではなく、学校の出席認定、自治体事業、企業・大学との共創など、社会の仕組みへ接続します。
メタバースという技術だけではなく、教師力、授業研究、子どもとの対話を競争力の中心に置き、継続的に育成します。
有料サービスの成長だけで終わらず、自治体連携や基金構想を通して、経済状況に左右されず教育を選べる未来を設計します。
FUTURE
教育から世界を照らす。
学校に並ぶ教育インフラの、その先へ
講義の終盤、星野は国内の不登校支援にとどまらない構想を語りました。オンラインで質の高い教育を届ける技術と教師力を生かし、人口増加、貧困、紛争、人身売買などの課題がある地域を含め、世界の子どもへ教育を届けることです。
さらに、将来は1,500億円規模の教育基金をつくり、運用益によって3万人へ毎月2万円を届ける構想も示しました。家庭の経済状況によって教育の選択肢が閉ざされないようにし、NIJINアカデミーを無償で選べる仕組みをつくる。社会的な理想を、資金の循環まで含めた事業構造へ落とし込もうとしています。
社会課題は、善意だけでも、利益だけでも解決できません。顧客を深く理解し、課題を構造化し、優れた人材と技術を集め、社会との接点を増やし、継続できる経済の仕組みをつくる。その積み重ねこそが、早稲田大学MBA「ソーシャルイノベーション」で共有された、NIJINの実践です。
幸せになる力と、人を幸せにする力がある。
教育の仕組みを変えることは、一人ひとりの力が社会へひらかれる条件をつくること。NIJINは、教育から世界を照らす事業をつくり続けます。

