1982年生まれ、青森県東北町出身の佐伯知美さん。高校の非常勤講師として美術を教える一方、美術館の教育普及担当としても勤務し、学校教育と地域の文化施設の両方で美術教育に携わってきました。
「もっと幅広く、もっと柔軟に美術教育を届けたい」と29歳で独立し、2015年にスクール実minori合同会社を設立。10年以上にわたり、子どもたちの夢中力を引き出す絵画スクールの運営や、へき地を含む青森県内の認定こども園・児童発達支援施設での出張絵画講座など、地域に根ざした美術教育に取り組んできました。現在はNIJINアカデミー青森十和田校の教室長として、新たな挑戦を始めています。
いまは、どのようなお仕事をしていますか?
現在は、スクール実minori合同会社の代表として、自作のカリキュラムを用いた独自の美術教育事業を展開しています。月に約10日間は土日を中心に自宅で絵画スクールを主宰し、それ以外の日は青森県内の認定こども園や児童発達支援施設を訪問して、絵画や表現活動の時間を担当しています。
授業で大切にしているのは、3つの力です。「ものごとにどれだけ夢中になれるか」という夢中力、「自分の好みや感覚を知る」感性、そして「なりたい自分を見極める」審美眼。美術やものづくりを通して、子どもたちが自分の表現方法を見つけ、未来を切り拓いていく力を自然と身につけていけるような学びの場づくりを大切にしています。
また、教育活動と並行して、私自身も現役の日本画家として作品制作を続けており、年に2回ほど作品展を開催しています。表現することや発表することを身近に感じてほしいという思い、そして若い世代の挑戦を応援したいという思いから、自らも表現者として活動し続けたいと考えています。
ニジンで働きたいと思ったきっかけは?
きっかけは、「リアル校を開校しませんか?」という一通のLINEメッセージでした。恥ずかしながら、その時初めてNIJINアカデミーを知りました。そこで掲げられていた「学校だけが学ぶ場所ではない」「子どもたちはみんな、幸せになる力がある。誰かを幸せにする力もある」という理念に、強く共感しました。
私は、家が13軒、同級生が9人という小さな集落で育ちました。狭い社会は、時に温かく、時にとても息苦しいものでもありました。
私にとって、義務教育の9年間は苦痛そのものでした。少しの違いで人を笑ったり馬鹿にしたりする光景。絶えない陰口。「みんなと同じであること」が重視され、一律のルールで管理される環境。そして、教師の権力が絶対であるような空気。私は、そんな環境に強い息苦しさを感じていました。
「毎日我慢して学校に通う意味は何だろう」「私は、何のために生まれてきたんだろう」。そんなことを毎日のように考え、台風で学校が吹き飛んでしまえばいいと、本気で思っていたほどです。
だから大学では生涯教育課程を選び、卒業後には高校の非常勤講師も経験しました。けれど、まず職員室の雰囲気に馴染めませんでした(笑)。そこで改めて、「自分は学校の中に入るのではなく、外から学びを支える方が向いている」と実感し、今の活動につながっていきました。
独立してから15年間、へき地を含む青森県内で、表現教育に携わってきました。その中で近年、特に感じるのが、自信を失っている子どもたちの多さです。「みんなができることが、自分にはできない」と、自分を責めてしまう子どもたちが本当に増えています。
私はこれまで、絵を描くことを通して、子どもたちが少しずつ自信を取り戻していく姿をたくさん見てきました。一方で、既存の学校の枠組みに合わず、そこからこぼれ落ちてしまった子どもたちにとって、青森県にはまだ十分な選択肢があるとは言えません。「私一人の活動だけでは、この現状を変えるには時間がかかりすぎる」。そんな思いも、少しずつ大きくなっていました。
そして4年前、私自身が親になりました。上の子の成長とともに、小学校入学が少しずつ現実になっていく中で、私自身の「学校への嫌悪感」も、再びよみがえってきました。
もし、我が子が「学校に行きたくない」と言ったら。私は、自分が親から言われたように「我慢して頑張って行きなさい」とは言えないと思います。
これまでの15年間の活動で感じてきたこと。そして、自分自身が親になったことで生まれた思い。この2つが重なったことで、フリースクールを自分で開校するという選択に心が動き、挑戦することを決めました。
そして、私のスクールが「リアル校」になることで、学校に行けない子どもたちに、単に「別の居場所」を提供するだけではなく、出席認定という具体的な選択肢と安心感を届けることができます。そこに、私は大きな希望を感じています。
ニジンで働いて一番心動かされた出来事/エピソードを教えてください
一番心を動かされたのは、先生方の熱量です。定例会議はもちろん、実習で見学したクラス会議やホーム体育には、公立学校ではなかなか見られない、自由だけど学びのある、参加したくなる雰囲気がありました。また、子どもの主体(なりたい自分)を中心に据えながら、先生同士も学び合い、よりよい場をつくろうとしている姿が印象的でした。
次に驚いたのは、授業の数と学びの選択肢の豊かさです。地方ではなかなか実現しづらい多彩な授業があり、子どもたちが自分の興味に合わせて学びを選んでいる姿に、大きな可能性を感じました。
全国に、本気で子どもたちの未来を考え、互いに学び合いながら挑戦を続ける仲間がいる。
仕事のむずかしさややりがいについて教えてください
難しさを感じるのは、何よりNIJINのスピード感です。新しい取り組みや情報共有、テクノロジーの活用が次々に進み、正直「みんな、どうやってこの変化についていっているんだろう」と圧倒されることがあります。
私自身、もともとの絵画スクールや出張講座の仕事でかなり手一杯の状態だったため、そこへNIJINの活動が一気に加わり、毎日が情報とタスクの波に追いかけられているような感覚があります。さらに、4歳と0歳の子どもを育てながらの挑戦でもあり、時間のやりくりの難しさを痛感しています。
一方で、この環境に飛び込んだからこそ得られている学びもあります。特に、アウトプットやプレゼンテーションは私がこれまで苦手としてきた分野です。自分の考えを言葉にして伝えること、限られた時間でまとめること、仲間からフィードバックを受けることは、決して楽ではありませんが、大きな学びになっています。
これからニジンで挑戦したいことはなんですか?
学校であっても、学校でなくても、子どもたちが一生懸命学んでいることに変わりはありません。
「私は◯◯に通ってるよ」と、それぞれが自信を持って言える。自分を幸せにする学び方を選べる。

